8月は燃えるような暑さで「炎夏」とも呼ばれる季節です。
ただ厳しい暑さの中にあっても、風鈴の音を聞いたり夜の月を見たりするひと時には涼しさを感じることもできる風流豊な月とも言えます。
そんな趣のある8月の代表的な誕生石は、ペリドットです。
今回は「8月の誕生石ペリドット」について解説し、その魅力に迫っていきたいと思います。
同じく8月の誕生石である「スピネル」と「サードニクス」についても紹介していますので、ぜひ最後までお読みください。
8月の誕生石、ペリドットとは?
8月の誕生石であるペリドットは、爽やかな草原を思わせる草緑色をした宝石です。その色合いはオリーブグリーンカラーとも呼ばれることも多く、和名はオリーブの石という意味を持つ「橄欖石(かんらんせき)」と言います。
ペリドットは一見控えめですが、ときに煌びやかな輝きを放つ宝石です。ペリドットの鉱物名は、鉄とマグネシウムを含む「オリビン(かんらん石)」で、ペリドットという名称は宝石名になります。
そんなペリドットについて、次の項目で興味深い二つの話を紹介します。
ペリドットで緑色をしたハワイのビーチ
火山活動が活発なハワイには、緑色をしたグリーンサンドビーチという場所があります。ここは長い年月をかけて波で削られ、丸く砂状になったペリドットが地表に現れている珍しいビーチです。ホワイトサンドならぬグリーンサンド。
このビーチは自然の神秘を感じられる観光スポットとしても知られていますが、実はこのペリドットは地球の地下60kmあたりで生成され、火山の噴火などによって地表に運ばれてきました。
ハワイにあるグリーンサンドビーチは、ペリドットによって緑に彩られている希少なビーチです。ちなみに宝石として認められるペリドットは、マグマと共に地表に出た際の厳しい温度差に耐え、美しさを保った状態のものに限られます。
隕石の中から発見される宇宙からきたペリドット
先ほどペリドットは地球深くで生成されるとお伝えしましたが、実は地球外で生成されたペリドットも見つかっています。その代表的なものがパラサイト隕石の中に含まれるペリドットです。
パラサイト隕石というのは、地球に落下する全隕石の中のわずか1%のみに該当する隕石のことを指します。
通常パラサイト隕石に含まれるペリドットのほとんどは、地球に落ちる過程で熱や衝撃の影響を受けて飴色に変色してしまうため、本来の色を保つことができません。ただ、奇跡的に美しいオリーブグリーンカラーを保った状態のペリドットもあり、それが宇宙から地球に運ばれてきた希少なペリドットです。
8月の誕生石「ペリドット」の3つの別名
ぺリドットと関わりの深い国や地域では以下のような3つの「別名」が言い伝えられております。
- 太陽の石(エジプト)
- 女神の涙(ハワイ)
- イブニングエメラルド(ローマ)
これらの背景を知ることで、ペリドットの特徴や魅力をより深く理解することができます。ではそれぞれ確認していきましょう。
1. 太陽の石 / エジプト
ペリドットは、エジプトにあるセント・ジョン島で現地の古代エジプト人によって発掘されたと言われています。キラキラと美しく輝くぺリドットは太陽を連想させ、自然と「太陽の石」と呼ばれるようになりました。
この古代エジプト人が太陽の石と呼んだペリドットですが、のちの分析で複屈折率が高いことが判明。現在では、科学的にも「素晴しい輝き」を放つ宝石であることが分かっています。
2. 女神の涙 / ハワイ
ペリドットは、ハワイでは「女神の涙」という別名で呼ばれています。この女神というのは、ハワイにあるキラウエア火山の「火の女神ペレ」のことです。
ハワイの人々が信仰する女神ペレは非常に情熱的で、嫉妬すると火山を噴火させマグマを噴き上がらせると言われています。書物などでそれを証明するような具体的な記述は今のところ見つかっておりませんが、火山噴火によって運ばれたペリドットを「女神ペレの涙」と表現し、言い伝えられてきたと考えられます。
火の女神ペレはハワイではとても特別な存在です。実際に火山活動が活発なハワイで暮らす人々は、噴火を繰り返す火山から自然の脅威と偉大さを学び、共存してきました。
その結果、敬意と共に「火の女神ペレ」の存在が言い伝えられ、その涙であるペリドットを身に着けることで「邪悪な物を焼き尽くし、全てを浄化する魔除けの力」を得られるとも信じられています。
3. イブニングエメラルド / ローマ
すでにお伝えしたように、ペリドットは複屈折率が高く、暗い場所でも小さな光を捉えて輝きを放ちます。古代ローマでは、ロウソクの小さな光を捉えてエメラルドのように輝くペリドットを「イブニングエメラルド(夜のエメラルド)」とも呼んでいました。
この輝きは、異性を惹きつけるほど魅力的であると同時に、魔性のものを近づけさせません。イブニングエメラルド。ペリドットの特徴を捉えたローマらしい別名と言えるでしょう。
8月の誕生石、ペリドットの魅力
ペリドットの最大の魅力は何といってもそのオリーブグリーンカラーです。
普段は決して派手ではなく控えめですが、薄明りの下では輝きを放ち人々の目を捉えます。日中は太陽の光を受けて薄く透ける樹葉を感じさせ、夜には月明りの下で昼を名残り惜しむように輝いてくれます。豪華絢爛(ごうかけんらん)な宝石ではありませんが「身に着ける人に確かな彩りとセンスを与えてくれる」それがペリドットです。
ペリドットの鉱物データ
英名/宝石名 | Peridot |
鉱物名 | オリビン(かんらん石) |
和名 | 橄欖石(かんらんせき) |
化学式 | Mg[SiO4] FE2+2[SiO4] |
色 | 黄緑色、緑色 |
モース硬度 | 6.5 - 7 |
劈開性 | 弱 |
屈折率 | 1.65 - 1.69 |
結晶 | 斜方晶系 |
比重 | 3.34 |
誕生石 | 8月 |
石言葉 | 幸福・夫婦愛 |
主な産地 | アメリカ・中国・ミャンマー・パキスタン・メキシコなど |
8月の誕生石「サードニクス」とは?
古くから8月の誕生石として知られているのが、サードニクスです。サードニクスは、微細な石英(クォーツ)の結晶が集まってできたアゲート(瑪瑙・めのう)の一種で「サードニクスアゲート」とも呼ばれます。
主な特徴は、赤褐色の地色と白い縞模様です。この模様は自然由来のため個体ごとに異なり、同じものはありません。ちなみに、このサードニクスは、彫刻や食器などを彩る宝飾品の素材として長年重宝されてきた宝石でもあります。
サードニクスが新エルサレムの土台石にも使用された可能性
新約聖書 「ヨハネの黙示録」には、最後の審判が下ったあとに現れる都である「新エルサレム」の城壁の土台石に飾られた宝石の一つに「赤瑪瑙(あかめのう)」の存在が記載されています。
飾られた宝石は全部で12種類。サファイアやルビー、エメラルドなどが挙げられますが、この内の一つである赤瑪瑙がサードニクスであるとも言われています。古来より宗教上の重要なシーンでさまざまな宝石が登場し使用されてきましたが、このサードニクスもその一つであるとすれば、その当時に特別視されていた宝石であったと言えるでしょう。
サードニクスの魅力
サードニクスの最大の魅力は、赤と白の絶妙かつ独特な縞模様の美しさです。特にその縞模様が鮮やかで発色がよいものは希少性と価値が高いだけでなく、芸術品のような印象も受けます。
個性的でありながら嫌味のない存在感で、カジュアルからフォーマルなシーンにまで幅広く使用できることも、サードニクスの魅力の一つと言えるでしょう。世界各地で採れるため、供給も安定している傾向にあり、手軽な価格で手にすることができるのも人気の理由です。
サードニクスの鉱物データ
英名 | Sardonyx |
鉱物名 | アゲート(瑪瑙) |
和名 | 紅縞瑪瑙(べにしまめのう) |
化学式 | SiO2 |
色 | 赤・白・褐色 |
モース硬度 | 7 |
屈折率 | 1.53 - 1.54 |
比重 | 2.60 - 2.65 |
誕生石 | 8月 |
石言葉 | 幸せな結婚・夫婦和合 |
主な産地 | 世界各地 |
8月の誕生石「スピネル」とは?
最後に紹介する8月の誕生石は、スピネルです。
スピネルは2021年12月に、日本の8月の誕生石に新たに加わりました。スピネルは化学組織の異なる21種の鉱物群からなるグループ名で、主な鉱物的な特徴は「完全な八面体であること」と「シャープな結晶構造を持つこと」です。
スピネルという名前は、その特徴的な鋭さから、ラテン語の棘(トゲ)を意味する「Spina」に由来しています。スピネルはカラーバリエーションが豊富な宝石。ブルー・ピンク・オレンジなどさまざまな色があります。
人気の高いブラックスピネル
さまざまな色を持つスピネルですが、その中でも近年人気が急上昇しているのが「ブラックスピネル」です。
ブラックダイヤのような高級感のある輝きと力強い存在感が魅力で、その色合いは「漆黒の頂点」とも称されます。その色や佇まいから男性人気も高く、メンズアクセサリーとしてもよく選ばれているのが特徴です。以前は希少性が高い傾向がありましたが、現在では供給も安定していることから手頃な価格で手に入れることができます。
スピネルは再評価された宝石
8月の誕生石であるスピネルは、実は長年にわたりルビーと間違われていた歴史を持ちます。その代表的な事例の一つは、イギリスの王家に代々伝わる352カラットの「ティモールルビー」です。これはルビーと名付けられていますが、赤色のスピネルであることが分かっています。
このようなルビーとスピネルにまつわる話は決して少なくありません。
特に有名なのが、同じイギリス王室の「ブラック・プリンス・ルビー(黒太子のルビー)」です。大きさは317カラット。このイギリス王室の守護石と呼ばれる大きなブラック・プリンス・ルビーは、今でもイギリス王室の第一公式王冠の正面に飾られていますが、スピネルであることが判明しています。
すでにスピネルであることが分かっているのにも関わらず、現在でもルビーと呼ばれている理由は、それまでの経緯や歴史への尊重を表しているからです。
ただ、一時は「ルビーではなくスピネルだった」という衝撃の背景から、スピネルは「ルビーのまがい物」として扱われた時期があります。ただその後、スピネルそのものの本質的価値と美しさが再評価され、今では人気宝石の一つとして存在感を放っています。
スピネルの魅力
カラーバリエーションが豊富なスピネルは「ほぼ全ての色」があると言われています。スピネルは、ルビーだけでなく同じくカラーバリエーションが豊富なサファイヤにも間違われてきた歴史も持ちますが、それが意味するのは「それらに見間違われるほどに美しい」ということです。鉱物こそ違いますが、4大宝石に数えられるルビーやサファイアに匹敵する「美しさ」は、スピネルの最大の魅力と言えるでしょう。
スピネルの鉱物データ
英名 | Spinel |
和名 | 尖晶石(せんしょうせき) |
化学式 | MgAl2O4 |
色 | 赤・青・ピンク・オレンジ・緑色・黒色・無色など |
モース硬度 | 8 |
屈折率 | 1.718 |
比重 | 3.6 |
誕生石 | 8月 |
石言葉 | 内面の充実・安全 |
主な産地 | スリランカ・ミャンマー・タンザニア・マダガスカルなど |
8月の誕生石 気になる石言葉は?
ペリドットの石言葉と意味
ここでは、8月の代表的な誕生石であるペリドットの石言葉や意味を紹介します。ペリドットの石言葉(宝石言葉)は「夫婦愛・運命の絆・幸福」です。古くからペリドットには、情欲を抑え込んで正気を保つ力があると信じられてきました。この効力によって、ペリドットには浮気を防止する力があると言う人も少なくありません。
浮気を防止する力についてはあくまで一例ですが、ペリドットは私達が正しくいられるように「知恵と分別」を与えてくれる石であると言うことができます。そんなペリドットの力を信じて身に着けると、夫婦の関係を良好に保てたり、大切な人達との絆をより深めることができるかもしれません。
サードニクスの石言葉と意味
8月の誕生石サードニクスの石言葉は、「幸せな結婚・夫婦和合」です。
先ほどのペリドットの石言葉にも似ていますが、その赤と白の模様が男女の関係を深めてくれると信じられています。一説には、縁結びのご利益があるとして有名な島根県の出雲大社に奉られている御神体が巨大なサードニクスでできているとも言われています。
残念ながら厳重に祀られており、宮司の方ですら見たことが無いため、その真偽を確かめることはできませんが、「縁結びの神様」ということを考えると可能性がないとは言い切れないでしょう。ちなみに、サードニクスは異性との関係全般に関して、永続的で安定的な幸せをもたらすパワーストーンとしても人気を誇っています。
スピネルの石言葉と意味
スピネルの石言葉は「内面の充実・安全」です。ただし、先述したようにスピネルにはさまざまなカラーバリエーションがあるため、厳密には色によって石言葉は変わります。例を挙げると、レッドスピネルの石言葉は「好奇心・探究心・自信」、先ほど紹介したブラックスピネルの石言葉は「果敢・破邪」などです。
石言葉からスピネルを選びたい方は、購入する際に注意するようにしましょう。一般的には、困難に立ち向かう時や新たな挑戦をはじめる時にスピネルを身に着けることで、内面が充実し自信と前進する力を得られると言われています。
8月の誕生石 パワーストーンとしての効果
ペリドットのヒーリング効果
- 魔除けやお守り
- 負の感情を癒やす
- 夫婦円満
- 人間関係を円滑にする
- 内面的な魅力を高める
サードニクスのヒーリング効果
- 家庭の繁栄をもたらす
- 夫婦円満
- 情緒を安定させる
- 災いから身を守る
- 大切な人との絆を深める
- 粘り強さや集中力を高める
スピネルのヒーリング効果
- グラウディング
- 勝利を呼ぶ
- 目標達成に近づく
- 不安を解消する
- 生命力を高める
個性豊かな8月の誕生石
8月の誕生石である「ペリドット・サードニクス・スピネル」の3つを紹介しました。
どれも個性的で素晴しい宝石ですが、最後に8月の代表的な誕生石であるペリドットの魅力を日本の伝統美である「羽織」とおり交ぜてお伝えしたいと思います。
かつて江戸時代では、羽織の「裏地」に凝った時期がありました。これは当時の法律で表地を質素にしなければならなかったことに起因しますが、その代わりに普段は見えない羽織りの「裏地」に趣向をこらすことで楽しんでいたのです。自然な動作の際にチラッと見える裏地は、「魅せる」ものであり、わざわざ人に「見せる」のは野暮であると言われていました。
8月の誕生石であるペリドットも、この羽織の裏地に共通する日本人の美的感覚を感じます。ペリドットの普段のオリーブグリーンカラーは、全く嫌味がなく控えめです。しかし、薄闇の中ではイブニングエメラルドと称されるほどに輝き人々の目を奪います。このぺリベットの二面性が、江戸時代の羽織りの表と裏とに共通し、日本人ならではの美的感覚をくすぐられると感じるのはきっと私だけではないでしょう。
約400年前に羽織りの裏地で「魅せて」いたように、ペリドットを身に着けることで控えめであっても、一瞬の輝きを演出することができます。「ルビーでもサファイアでもなく、ペリドットで魅せる」、ぜひ一度試していただきたいと思います。
その他の8月の誕生石であるサードニクスとスピネルも、非常に魅力的な宝石です。お気に入りを見つけられたら、ぜひ実際に手にとって身近な存在にしてみてください。
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