秋が深まってくる11月。イチョウの葉は気温が下がっていくにつれて色素分解し、緑色から黄金色に変わって黄葉のピークを迎えます。そしてやがて落葉し、足元を埋め尽くす絨毯となった後に消え、その存在は翌年まで忘れられます。
この美しくも儚い黄金色は11月の誕生石である「トパーズ」と「シトリン」を思い浮かばせてくれます。ということで今回はこの11月の2つの誕生石について、その魅力をお伝えしていきたいと思います。
11月誕生石のアイテム一覧
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11月の誕生石|トパーズ、その石言葉
11月の誕生石であるトパーズの石言葉は「希望・友愛・潔白」で、和名を「黄玉(おうぎょく)」と言います。イエローカラーを連想させる和名ですが、実はトパーズはブルー・ピンク・パープル・グリーンなど様々な色を持つ、色彩豊かな宝石です。
人の手によって加工されその美しさを引き出されたトパーズも多く、その代表格はブルートパーズです。これは無色もしくは薄青色のトパーズに照射処理(エンハンスメント)が施され、鮮やかなブルーカラーが作り出されています。
一方、ブラジルで産出される天然色トパーズの一種でオレンジがかったイエローカラーをしているのが「インペリアルトパーズ」です。
インペリアルトパーズ
インペリアルトパーズという名前の由来インペリアル(imperial)は英語で「上質・皇帝」などの意味がありますが、トパーズの中でも一目置かれる希少性と色を持ち、現在に至るまで人気を博しています。オレンジ、時にはピンクがかったシェリー酒のような美しい色をしたインペリアルトパーズはそれ自体がとても貴重です。
11月の誕生石であるトパーズの主産地であるブラジル、皇帝ドン・ペドロ統治時代の1883年には、この天然石トパーズを称した模造品が世界中に出回り始め、それを懸念して名前の頭に「インペリアル」の冠名がつけられました。
インペリアルトパーズの特徴
11月の誕生石、トパーズにはFタイプとPHタイプの2種類があります。専門的になってしまいますのでここでは詳細は省きますが、簡単に言うとこれはトパーズに含まれる成分によって分類されます。インペリアルトパーズはOHタイプになります。
一般的なFタイプトパーズは直射日光に弱く、太陽光にさらされた状態が続くと退色してしまうことがありますが、OHタイプトパーズであるインペリアルトパーズにはそれがありません。この「失われることのない美」がインペリアルトパーズの魅力であり、特徴の一つになります。
もう一つのインペリアルトパーズの特徴として、「照らす光の種類や光量に関わらず、その美しい色をそのまま発色する」ということが挙げられ、暗い場所でもその魅力を十分に発揮します。
トパーズ(インペリアルトパーズ)の歴史
トパーズという名称の由来は諸説あります。一つは古代インドで使われていたサンスクリット語で「熱」を意味する「TAPAS(タパス)」を語源とする説、もう一つはギリシャ語で「探し求める」を意味する「TOPAZOS(トパゾス)」を語源とする説です。ちなみにトパーズは8月の誕生石でお馴染みのオリーブグリーンカラーをした「ペリドット」と長年に渡り混同されていました。
今から約1,000年前にフランスの司教マルボドゥスの著書「宝石誌」には「ペリドットは純金に似たものと、淡く澄んだものの2種類がある」と記載されており、純金に似た色のインペリアルトパーズはペリドットの一種と考えられていたと言われています。その後、トパーズが誤りなく「トパーズ」として一般に認知されるようになったのは、その宝石誌から700年後の1,700年代のヨーロッパだったそうです。
11月の誕生石、トパーズの意味や言い伝え
誕生石の由来とされる説の一つに、新しい世界の都「新エルサレム」にある12城塞それぞれの土台を装飾した宝石説というものがありますが、その第9の土台を飾っていたのがトパーズだったと新約聖書の「ヨハネ黙示録」には書かれています。
トパーズにまつわる言い伝えは他にもたくさんあります。先程トパーズの名前の由来は古代インドの言語で「TAPAS(タパス/熱)」であるという説を取りあげましたが、トパーズはインドでは「火の石」として崇められ、エジプトでは太陽神ラーの化身と信じられていました。
また他の地域でもインペリアルトパーズの特徴である暗闇でも輝く蛍光性から、闇に光をもたらす魔法の石として特別視され、お守りとしても用いられていたと言われています。ヨーロッパのルネサンス期にも似た言い伝えがあり、トパーズを使えば魔法の呪文を解くことが出来ると信じられていたようです。
英名 | Topaz |
和名 | 黄玉(おうぎょく) |
分類 | ケイ酸塩鉱物 |
化学式 | Al2SiO4(OH,F)2 |
色 | OHタイプ…黄、橙、桃、褐色 / Fタイプ…淡青、青、黄、淡緑、 褐色 、無色 |
モース硬度 | 8 |
劈開性 | 完全(水平方向) |
条痕 | 白色 |
結晶系 | 斜方晶系 |
比重 | 3.53~3.56 |
屈折率 | 1.619 - 1.627 |
石言葉 | 友情 誠実 |
11月の誕生石|シトリン、その石言葉と意味
もう一つの11月の誕生石はシトリンです。石言葉は「友情・輝き・生命力」で、和名を黄水晶と言います。ちなみにシトリンは双子座(5/21~6/21)の星座石としても知られています。
流通しているものの多くはアメジストを加熱処理したものになりますが、発色の豊かなものはブランデーシトリンと呼ばれ、原石流通の段階で一般的なシトリンと区分されます。先程のインペリアルトパーズの項目で模造品が出回っていたとお伝えしましたが、実はその一つがこのシトリン(黄水晶)です。比べて見ると確かによく似た色合いをしているのが分かります。
しかしシトリンをトパーズの模造品という扱いをするのは今ではナンセンスです。なぜならシトリンはトパーズに勝るとも劣らない魅力があるからです。
シトリンの魅力「ブランデーシトリン」
11月の誕生石であるシトリンのうっすらと黄金色がかった透明感のあるカラーは嫌味がなく、優しさと気品を感じさせてくれますが、その発色がより鮮やかで濃いものをブランデーシトリンと呼びます。これはその名の通りブドウを醗酵させ、蒸溜したお酒「ブランデー」から由来しています。
ちなみにフランスのコニャック地方で、厳格に定められた製法で製造されたブランデーをコニャックと呼びますが、ブランデーシトリンも別名で「コニャックシトリン」と呼ばれることもあります。ブランデーシトリンは通常のシトリンより絶妙に色が鮮やかで濃いです。ハチミツのような琥珀色、もしくはまろやかな飴色とも言えます。
冒頭でイチョウの黄葉の話をしましたが、緑から黄金色になったのがインペリアルトパーズや通常のトパーズであり、落葉し再度自然に還る瞬間のイチョウの葉の色がこのブランデーシトリンと形容できます。
シトリン×アメジスト in ボリビア
シトリンを語る機会にぜひ紹介したいのが「アメトリン」です。これは一つの宝石の中にアメジストとシトリンが存在するユニークな宝石です。
アメジストは夕暮れに一瞬訪れる幻想的な紫色の空を思わせるパープルカラーをした宝石ですが、このパープルとシトリンの透明感のあるイエローが作り出す神秘的なツートンカラーを持つのがアメトリンです。(和名:紫黄水晶)
このアメトリンは1970年代に流通しはじめ、その美しいツートンカラーにより瞬く間に人気の宝石となりました。しかし実はそれは人工処理されて作られた宝石だったと判明しましたが、その後1989年に中南米の国ボリビアにあるアナイ鉱山で天然のアメトリンが見つかりました。
ボリビアと言えば、空を湖面に映し出す「天空の鏡」として有名なウユニ塩湖があります。東京ドーム約22,700個分の広大な湖全体の高低差がわずか50cm以内という「世界で最も平な場所」は自然が偶然創った神秘的な場所です。
このウユニ塩湖がある同じボリビアの鉱山で発掘されたアメトリン、実はどのようにしてそんな結晶構造ができたのかは未だ解明されていません。いまだ謎のベールに包まれたシトリンとアメジストの共存はウユニ塩湖と同様に自然が創りだした神秘と言えます。
シトリンを身に着ける意味
淡く美しい黄金色をした11月の誕生石シトリンは、古来から現在に至るまで世界各地で冨と繁栄をもたらす宝石として信じられてきました。これはシトリンが「幸運の石」や「商人の石」と呼ばれている由縁でもあります。
また、パワーストーンとしても人気があり、活力をもたらしストレスをも癒してくれると言われています。かつては消化を助けたり、解毒効果もあると信じられ、病気の治療として活用されていた歴史もあります。
英名 | Citrine Quartz |
和名 | 黄水晶(きすいしょう) |
分類 | 酸化鉱物 |
化学式 | Sio2 |
色 | 紫、黄色 |
モース硬度 | 7 |
劈開性 | なし |
条痕 | 白色 |
結晶系 | 六方晶系 |
比重 | 2.65 |
1.544~1.553 | |
石言葉 | 自信 繁栄 |
11月の誕生石、まとめ
今回は秋も深まる11月の誕生石であるトパーズとシトリンについてお伝えしました。美しいイチョウの黄葉も冬を迎える前には消えてしまいます。鑑賞できる期間が限られていてることがとても名残惜しいですが、宝石は身に着ければずっとそばにいてくれます。
優しい黄金色をしたトパーズとシトリン。興味を持った方はぜひ実際にその手に取ってみて下さい。さりげなくも素敵な「美しさ」を演出できると思います。
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