光の当たり方などによって、カラーを変えたり美しい模様を見せてくれたりする宝石は数多くあります。
しかしアレキサンドライトほど、その見た目を変える宝石は珍しいでしょう。
「昼のエメラルド、夜のルビー」とも呼ばれるアレキサンドライトは、あたる光の種類によって、緑と赤という正反対のカラーを見せてくれます。
この記事ではそんなアレキサンドライトにスポットを当て、その組成や名前の由来、石言葉やその効果などについて紹介します。
アレキサンドライトとは
アレキサンドライトは、ベリリウムとアルミニウムで組成されたクリソベリルという鉱物のひとつです。
しかしクリソベリルは黄~黄緑色のものが多いのに対し、アレキサンドライトのカラーはグリーンやレッド系。これは、酸化クロム、酸化鉄、酸化バナジウムを微量に含んでいるためです。
クリソベリルと同様、アレキサンドライトのモース硬度は8.5と、ダイヤモンド、ルビーなどに続く硬さを持っています。
扱いやすくデイリーユースのアクセサリーなどにぴったりですが、天然のアレキサンドライトは、内包物が多くまたクラック(ひびや割れ)が多いのも特徴のひとつ。もともとアレキサンドライトは希少な石ですが、大きな結晶が見つかることはごく稀。5カラット以上ある天然のアレキサンドライトは大変希少となっています。
アレキサンドライトの歴史と名前の由来、和名
アレキサンドライトが見つかったのは、1830年ロシアにあるエメラルド鉱山からでした。
見つかった当初は、グリーンの結晶体であったことからエメラルドだと思われていました。
しかし、その石が夜間になってろうそくやランプなどの光が当たるとレッド系の色にカラーチェンジしていたことから、エメラルドとは別の珍しい石であると認識され、ロシア皇帝に献上されることになります。
そして偶然にも、皇帝に献上された日はロシア皇太子(のちの第12代ロシア皇帝アレクサンドル2世)の成年式の日でした。そのため、アレクサンドル2世の名にちなんで「アレキサンドライト」と命名されたといわれています。
また当時ロシアの軍服が緑と赤をカラーテーマとしていたため、アレキサンドライトはロシア国内で大変な話題になったようです。
アレキサンドライトは和名では「金緑石(きんりょくせき)」と呼ばれています。ロシアで初めて採掘された際に緑に光っていたことから、この和名が付けられました。
アレキサンドライトの産地
アレキサンドライトはロシアのウラル山脈、ブラジル、スリランカ、ジンバブエ、タンザニア、マダガスカル、インドなど、多くの国や地域で採掘されています。
しかし、内包物やクラックなどが多いため、宝石質のものはなかなか見つかりません。
そんな中でもロシアの鉱山では、質の高いアレキサンドライトが発掘されていました。しかし、現在ではロシアの鉱山のアレキサンドライトはほぼ枯渇したとみられているため、今後ますます希少性が高まると考えられています。
日本では、残念ながらアレキサンドライトが発掘されたというデータは見つかりませんでした。
アレキサンドライトの鉱物データ
英名 | Alexandrite |
和名 | 金緑石(きんりょくせき) |
分類 | 酸化鉱物 |
化学式 | Al2BeO4 または BeAl2O4 |
化学組成 | ベリリウムとアルミニウムの酸化鉱物 |
結晶系 | 直方晶系(斜方晶系) |
モース硬度 | 8.5 |
靭性 | 高 |
比重 | 3.7-3.8 |
屈折率 | 1.74-1.77 |
分散度 | 0.015 |
劈開性 | 不明瞭 |
光沢 | ガラス光沢 |
色 | グリーンブルー、ダークグリーン⇔レッド、バイオレット |
石言葉 | 高貴、情熱、秘めた想い、栄光、誕生、出発 |
アレキサンドライトのアイテム一覧
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アレキサンドライトの特徴 昼と夜、2つの顔を持つ石?
アレキサンドライトの特性
普段私たちが見ている日光や室内の蛍光灯の下では、アレキサンドライトは美しい緑色や青緑色に輝きます。ですが、夜にろうそくの灯りや白熱灯のような光の下で見ると、驚くことに赤色や赤紫色に変わります。そのため「昼のエメラルド、夜のルビー」ともいわれています。
このようにアレキサンドライトは、光の種類によってカラーチェンジする不思議な石です。昼と夜の顔を持つアレキサンドライト、なぜこのような変化が起こるのでしょうか?
この色の変化の秘密は、「光の魔法」とも言える特性にあります。アレキサンドライトに含まれるクロムという成分がキーポイントです。クロムは光を受けると、宝石の色を変える特別な力を発揮します。これは「変色効果」と呼ばれる現象です。
変色効果とは?
変色効果とは、宝石が異なる光源の下(太陽光の下と白熱光の下など)で異なる色に見える現象のことです。この現象は、石の内部構造や化学成分が特定の光の波長を吸収し、反射することで引き起こされます。変色効果を持つ石は、見る場所や光の種類によって劇的に色が変わるため、非常に珍しく高い価値を持ちます。
アレキサンドライトは、自然光の下では青緑色やエメラルドグリーンに見えますが、人工光の下では深い赤色や赤紫色に変わります。これは、宝石内部に含まれるクロムが、異なる光源で異なる波長の光を反射するために起こります。
・自然光(太陽光)
太陽光は、昼間に見ることができる白色光で、すべての波長の光が均等に含まれています。この光の下では、アレキサンドライトは青緑色やエメラルドグリーンに見えることが一般的です。これは、クロムが青から緑の波長を反射するためです。
・人工光(白熱光、電球の光など)
白熱光は、赤やオレンジの波長が強い光です。この光の下では、クロムが赤や紫の波長を強く反射するため、アレキサンドライトは赤色や赤紫色に見えます。
変色効果はアレキサンドライト以外にも、一部のガーネットやサファイア、アメジストなどでもみられることがあります。
しかし、アレキサンドライトほど大きくカラーチェンジする宝石は珍しいのです。そのため、宝石が当たる光によってカラーを変える効果を「アレキサンドライト効果」と呼ぶこともあります。
それほどアレキサンドライトは、はっきりとしたカラーチェンジで見た目を楽しませてくれる宝石といえるでしょう。
アレキサンドライト キャッツアイ
クリソベリルは内包物の効果により、石のなかに猫の目のようなラインを見せるものがあり「クリソベリルキャッツアイ」と呼びます。
クリソベリルの亜種であるアレキサンドライトにもキャッツアイ効果がみられるものがあって「アレキサンドライトキャッツアイ」と呼ばれています。
希少なアレキサンドライトのなかでさらに希少なアレキサンドライトキャッツアイの実物と出会える機会は、宝くじに当たるようなものかもしれないですね。
アレキサンドライト それぞれの顔が持つ魅力
昼のエメラルド
日中の明るい光の中では、アレキサンドライトは「昼のエメラルド」としての姿を見せてくれます。青緑色やエメラルドグリーンに輝くその様子は、静かで落ち着いた美しさや穏やかさを感じさせます。日差しの下で見るアレキサンドライトは、さわやかで洗練された印象。そのため昼間のお出かけや、ビジネスシーンにもぴったりの色合いです。
夜のルビー
しかし、日が沈み夜の帳が降りると、アレキサンドライトはドラマティックな変化を遂げます。白熱灯やキャンドルライトなどの人工光の下では、昼間の穏やかな緑は消え去り、今度は「夜のルビー」として深紅や赤紫色の輝きを放ち始めます。この色の変化は、まるで昼間の静けさから解放され、夜の情熱を解き放つかのようです。夜のシーンに映える赤の色合いは、特別なディナーやパーティーなど、エレガントでロマンチックなシーンにもふさわしい宝石です。
アレキサンドライトは6月の誕生石
アレキサンドライトは、GIA(米国宝石学会)では6月の誕生石と認定されていましたが、日本では、誕生石として認められていませんでした。
2021年12月に、全国宝石卸商協同組合が誕生石の改定を提案し、日本ジュエリー協会、山梨県水晶宝飾協同組合も賛同したことから、6月の誕生石として、63年ぶりの大改訂でアレキサンドライトが追加されることになりました。
現在6月の誕生石は、パール(真珠)、ムーンストーン、アレキサンドライトの3つになります。
「金緑婚式」の結婚記念石
アレキサンドライトは、結婚45周年を祝う「金緑婚式」の結婚記念石として知られています。
結婚記念日は迎える年数によって「〇〇婚式」という呼び方や、記念日にちなんだ贈り物が決められています。そして結婚15周年を迎えた頃から、宝石や貴金属が贈り物として登場するようになります。
アレキサンドライトは和名で「金緑石」とも呼ばれ、「金緑婚式」とは結婚生活の長きにわたる絆と愛情を象徴する節目の年です。長年連れ添った夫婦の関係には、穏やかな日々もあればときに感情的になることもあるでしょう。そしてパートナーの新たな一面を知り、さらに絆を深めることも。それはアレキサンドライトの昼と夜で変わる二つの輝きに通じるところがあります。
アレキサンドライトは、長い年月を共に歩んできた夫婦の関係を祝福する特別な意味を持っています。金緑婚式には、この石を贈り物として選ぶことで、これまでの年月を振り返り、そしてこれからの未来に向けた新たな誓いを込めることができるでしょう。
アレキサンドライトの石言葉
アレキサンドライトの石言葉は、秘めた思いです。
この石言葉には、周囲からの影響を受けず、自分の信念に基づいて突き進む意志の強さを持つ、という意味と、アレキサンドライトのもつ二面性のように、表に出ている性質とは別の隠された魅力を持っているという意味があります。
癒し系に見えて、実はしっかりと自分の意思を持っていることに気づいたとき、周囲の人は、そのギャップに魅了されるでしょう。
または自分自身も気づいていなかった個性を引き出すことができるかもしれません。
このほか、高貴・栄光・誕生・出発といった石言葉も、アレキサンドライトは持っています。
アレキサンドライトのアイテム一覧
このコラムで紹介しているアレキサンドライトの天然石アイテムはこちらからご覧いただけます。
アレキサンドライトを身につける意味
アレキサンドライトの石言葉には、周囲の影響に流されず、自分の信念を貫く強さが込められています。この石を身につけることで、日々の生活の中で自分自身の意志を確固たるものにしていくことができます。まるで、内に秘めた力を外に解き放つ鍵を手にしたような感覚になるでしょう。
また、アレキサンドライトが示す「秘めた思い」は、自分でもまだ知らない新たな個性や能力の発見につながります。外見からは想像もつかない深い内面の魅力や、強さを持っていることに気づかされる瞬間は、まさに魔法のよう。身につける人の隠された面を引き出し、新たな自分自身との出会いを与えます。
また、人生の新たなステージに踏み出す際にも強力なサポートとなるでしょう。変化や成長の過程において、持ち主に希望と勇気を与えてくれます。人生の重要な転機や新しい挑戦を前にしたとき、アレキサンドライトは最高のパートナーとなるでしょう。
アレキサンドライトの美しさは、日々変わりゆく自分自身を受け入れ、愛することの大切さを教えてくれます。アレキサンドライトと共に、あなたの人生に秘められた無限の可能性に目を向けてみませんか?
アレキサンドライトのパワーストーンとしての効果
アレキサンドライトには次のような効果があるといわれています。
- 周囲に流されずに自分を貫く強さと柔軟さ
- 自分を大事にする力を与えてくれる
- 内に秘めた個性を引き出し、創造力を発揮させてくれる
自分に自信がない人や、自分の意見をはっきり言いたいと願っている人にぴったりの石です。これから転職や引っ越しなどで環境が変わる人へのプレゼントとしてもおすすめです。
人工アレキサンドライト
アレキサンドライトは、その希少性からパライバトルマリン、パパラチアサファイヤと並び、「世界三大希少石」とよばれるほど珍しい石です。場合によってはダイヤモンド、サファイア、エメラルド、ルビーの「四大宝石」よりも価値が高いといわれることがあるほど。
そんなアレキサンドライトですが、1975年に人工合成に成功しています。開発者の努力により、化学特性・物理特性・光学特性・結晶構造が天然のものと同質の人工アレキサンドライトが作られるほどになりました。
人工アレキサンドライトには、内包物やクラックもほとんどなく、天然ものに比べると安価で大きな結晶を作ることができるメリットがあります。リーズナブルで、粒の大きさや形がそろっている人工アレキサンドライトは、ジュエリーとしても加工しやすいでしょう。
また現在、レーザー機器の部品にも人工アレキサンドライトが使用されています。 今後ますます人工アレキサンドライトが活躍する場が増えてくるかもしれません。
アレキサンドライトのお手入れ・浄化方法
アレキサンドライトは、モース硬度8.5と、ダイヤモンドやルビー、サファイアに次ぐ硬さを持つ石です。そのため、扱いやすくデイリーユースのアクセサリーの宝石にもぴったりです。
お手入れは汚れが気になった場合に、中性洗剤を薄めたもので洗った後、しっかりと水気を取り除くだけでOKです。浄化も、日光浴・月光浴・塩・クラスタ・セージ・音浴のいずれの方法でも浄化できます。
ただし、いくつかの石がついているアクセサリーなどは、そちらの石に適した浄化方法を選び浄化することをおすすめします。
アレキサンドライトについて まとめ
「昼のエメラルド、夜のルビー」と称されるほど、当たる光によって別の石かと思うほどがらりと表情を変えるアレキサンドライト。その特性や希少性から指輪やピアス、ネックレスなどのジュエリーにとても人気がある宝石です。
良質のアレキサンドライトが採れるロシアの鉱山も枯渇したとみられているため今後ますます天然のアレキサンドライトは希少なものとなるでしょう。
しかし一方で、人工宝石の技術が高まり、天然のアレキサンドライトと同質の人工アレキサンドライトも作られるようになりました。
粒がそろった人工アレキサンドライトは、ピアスなどの対になるアクセサリーへの加工もしやすく今後ますます増えてくるとみられています。
隠れた才能を引き出すとされているアレキサンドライトを見かけたらぜひ手に入れてみてはいかがでしょうか。
アレキサンドライトのアイテム一覧
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