
アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロの山麓にある鉱山。青く美しいタンザナイトが採れる世界で唯一の場所です。赤道直下にも関わらずキリマンジャロの山頂台地は、雪と氷河の世界。キリマンジャロは、アフリカ東岸部で話されているスワヒリ語で「白く輝く山」という意味です。
今回は、そんな場所で採れる希少な宝石タンザナイトについてお伝えしたいと思います。
タンザナイトとは

タンザナイトの正式な鉱物名は「ブルー・ゾイサイト」です。ただし日本では2018年に、宝石鑑別機関(AGL)がタンザナイトを正式な宝石名として認め、鑑別書でも「宝石名:タンザナイト」と表記されるようになりました。
ゾイサイトという鉱物にはピンク・イエロー・グリーンなど様々なカラーが存在しますが、その中のブルーのゾイサイトのことをタンザナイトと呼んでいます。タンザナイトが最初に発見されたのは1967年。キリマンジャロを有する東アフリカの国タンザニアです。
空から注がれた魔法の炎(MAGIC FIRE FROM THE SKY)
これはタンザナイト発見時の逸話です。落雷によってタンザニアのとある丘陵の草原が炎に包まれました。この燃え広がる炎を、先住民マサイ族の遊牧民はのちに「空から注がれた魔法の炎」と呼びます。もともと茶褐色だったゾイサイトの原石は、この炎の後に美しい青に変化。誰も予期していなかった宝石が誕生したという話です。
人々を魅了する宝石には、このような伝説が付きものです。自然が創り出す美しい宝石を理解するには、科学的根拠よりも魔法のような現象の方が腑に落ちるからでしょう。タンザナイトも例外ではなく、空から降り落ちた雷と炎によって生まれたと言われれば、その美しさをより素直に受けとめることができるのではないでしょうか。
タンザナイトの特徴

タンザナイトの大きな特徴のひとつには多色性が挙げられます。多色性を簡単に説明すると、色の変化を持っているということです。
タンザナイトは光などの周囲の環境や、見る角度によって、無色透明から青や紫、時にグレーに見えることもあります。ブルーサファイアのような美しい青色を持つタンザナイトですが、さまざまな色の変化を放つのが特徴です。
タンザナイトの名前の由来

既にお伝えしたようにタンザナイトの正式な鉱物名はブルーゾイサイトです。タンザナイトという名称は、もともとコマーシャルネーム。宝石の魅力を広く届けるために、それに相応しい名前として命名されたものです。
タンザナイトと名付けたのは、あの有名なティファニー社です。ティファニーは、アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロを背景にしたタンザニアの夜の美しい風景からインスピレーションを得て、「タンザニアの夜」つまりタンザナイトと名付けました。タンザナイトは、確かにタンザニアの日没後、頭上に広がる夜のはじまりを「ひとつまみ」してとじ込めたような宝石です。
ティファニーによってタンザナイトという名で展開されたプロモーションは大成功。タンザナイトを求める需要は高まり、1998年と1999年にはタンザナイトは世界で最も売れたカラーストーンと発表されるまでになりました。ちなみにブルーゾイサイトという鉱物名を使用するのを避けたのは、ゾイサイトが英語の自殺(suicide・スイサイド)に聞こえることもその理由のひとつであると言われています。
タンザナイトの産地と鉱物情報

冒頭で既にお伝えしたように、タンザナイトは、アフリカのタンザニアにあるメレラニ鉱山でのみ採れる宝石です。産地がたった1ヵ所しかないこと、さらに産出量が年々減少していることなどから、人気・希少性ともに高い宝石となっています。
タンザナイトの鉱物データ
英名 | Tanzanite |
和名 | 灰簾石(かいれんせき) |
分類 | ケイ酸塩鉱物 |
化学式 | Ca2Al3(SiO4)(Si2O7)O(OH) |
色 | 紫、淡青、青、桃色 |
モース硬度 | 6.5 |
劈開性 | 一方向に完全 |
屈折率 | 1.69-1.70 |
結晶系 | 斜方晶系 |
断口 | 貝殻状 |
条痕 | 白色 |
比重 | 3.35 |
光沢 | ガラス状 |
石言葉 | 冷静 |
タンザナイトの産出量はダイヤモンドの0.1%と言われるほど少量です。また、もしタンザニア以外の地域で発掘される可能性があるとすれば、その確率は100万分の1とも言われています。
タンザナイトの石言葉

12月の誕生石でもあるタンザナイトの石言葉は「冷静・高貴・神秘」などです。
特に女性はタンザナイトを身に着けることで、女性的な魅力が増すとともに、より知性的に、そしてリラックスして過ごせると言われています。また、産出地のアフリカでは、長年の不幸を脱する石として大切に扱われてきたとも言われています。
タンザナイトの持つ意味

タンザニアの大地が生んだ、神秘的なタンザナイト。ここでは、タンザナイトが持つ意味を紐解いていきましょう。
変化と進化
タンザナイトは、変化と進化の力を秘めています。この石は、人生の新しい道へと一歩踏み出す勇気を与えます。かつて、一人の旅人が人生の岐路に立っていた時、タンザナイトの輝きに導かれました。この石は、旅人に変化を恐れず、新しい自分へと成長する勇気を授けたのです。タンザナイトは、持ち主に常に前進する力を与え、未知なる可能性へと導きます。
直観力
次に、タンザナイトは直観力の象徴です。深い青の中に秘められた力は、持ち主の直観を鋭くし、本当の自分自身と向き合う力を与えます。内なる声に耳を傾け、真実を見つめる勇気を与えてくれるのです。タンザナイトは、私たちが本当に望むものを見つけ出す手助けとなってくれます。
コミュニケーション能力の向上
最後に、タンザナイトはコミュニケーション能力の向上にも寄与します。言葉を越えた理解と共感を育むのです。周囲の人々との真の理解を深めたいと思う時、タンザナイトは心の壁を取り払い、人々との深い絆を築く手助けをしてくれるでしょう。タンザナイトは、言葉だけでは伝えきれない感情を伝え、心と心を結ぶ架け橋となります。
タンザナイトのパワーストーンとしての効果

タンザナイトが持つとされるパワーストーンとしての効果は、多くの人々にとって心の安らぎや力の源となっています。私自身、タンザナイトの持つ特別な魅力に心惹かれた一人です。
ストレスを軽減する効果
日常生活の中で私たちはさまざまなストレスに直面します。タンザナイトを身につけることで、そのストレスが軽減される効果があると言われています。この石は、穏やかでバランスの取れたエネルギーを放つと言われており、それが心を静め、ストレスを和らげるのに役立ちます。タンザナイトを身につけることで、日々の慌ただしさから一時的に離れ、心に平穏を取り戻すことができるかもしれません。
集中力と決断力を高める効果
タンザナイトは、集中力を高め、決断を促す力があるとも言われています。重要なプロジェクトや困難な決断の瞬間に、この石を持つことで心が落ち着き、クリアな思考を促します。重要な会議やプレゼンテーションの前にタンザナイトを身につけると、自然と集中力が増し、自信を持って物事に取り組むことができるでしょう。
身体と心のバランスを取る効果
私たちの心と身体は密接につながっています。タンザナイトは、この二つのバランスを取るのに効果的な石です。ストレスや緊張が身体に影響を及ぼすことはよくありますが、タンザナイトは心を落ち着け、身体のバランスを整える助けとなります。
タンザナイトのモース硬度

タンザナイトのモース硬度は6.5から7です。モース硬度7以下の宝石は比較的柔らかい部類とされ、使っているうちに傷がつく可能性があります。ですのでタンザナイトの日常生活での扱いには、少し注意が必要です。
例えば、ダイヤモンドやサファイアといったより硬い宝石と一緒に保管すると、タンザナイトに傷がつく可能性があります。他の宝石から分けて、柔らかい布で包んで保管するのがおすすめです。
またタンザナイトの汚れが気になるときには、ぬるま湯や石鹸水を使った洗浄が適しています。洗浄後は、柔らかい布で水気を拭き取り、完全に乾かしてから保管してください。強い洗剤や硬いブラシ、高温での洗浄は表面を傷つけたりダメージを与える可能性があるので避けましょう。
タンザナイトは12月の誕生石

1月~12月の誕生月を象徴する宝石のことを誕生石と呼びます。12ある月それぞれに、種類の違う宝石の名前が挙げられます。タンザナイトは12月の誕生石とのひとつして知られています。
12月の誕生石 | タンザナイト・ターコイズ(トルコ石)・ラピスラズリ・ジルコン |
誕生石は、昔の占星術師が「その月に生まれた人々を癒し、護る力を持つ宝石」と信じた歴史があります。したがってに身に着けることで、特別な力の加護を受けられると考えられています。誕生石というものが、公式に最初に制定されたのは、1912年のアメリカです。それ以来、長きにわたり、誕生石のラインナップに変化はありませんでした。
しかし、変化が起こったのは2002年。タンザナイトが12月の誕生石として新たに加わることになりました。これは誕生石史上において最も大きな変化のひとつです。
タンザナイトが1967年に発見されてから、わずか35年。異例のスピード出世とも言えます。他の誕生石には何千年という歴史があるものもありますが、歴史の浅いタンザナイトが12月の誕生石に選ばれた理由は、「20世紀の宝石」と呼ばれるほどの人気と存在感があったからです。
大阪万博で登場したタンザナイト

タンザナイトが日本で大々的にお披露目されたのは、1970年に日本の大阪で開催された万国博覧会・通称「大阪万博」です。大阪万博の開催期間は183日、累計来場者数は6,400万人以上にも達した巨大イベントで、タンザニア政府は自らタンザナイトを持ち込み、タンザニア館で展示しました。
タンザニアの正式名称はタンザニア連合共和国です。大阪万博時には、イギリス連邦から独立してわずか6年という新しい国家でした。日本での知名度はほとんどなく、大使館や領事館すら国内にない状態です。
そんな状況にも関わらず、タンザニア館は大阪万博での人気を博しました。その背景には、開幕して数日後に展示していた宝石類が盗難被害にあってしまい閉館になってしまったこと、その後に本国から宝石をもう一度持ち込んで再度開館した、というニュースがマスコミに取りあげられたからです。
聞いたこともない遥か遠くの国から採れた、タンザナイトを含む、上質で美しい宝石の数々。その評判が広まりつつあった時に起こった盗難事件。しかし、それにも負けずに再度復活したタンザニア館。このストーリーによって、タンザニアとタンザナイトの名は日本で広まり、大阪万博に旋風を巻き起こしたのです。
世界最大のタンザナイトの発見

世界最大のタンザナイトが見つかったのは2020年6月です。その原石の大きさは、9.27kg。それまでの最大サイズは2005年の3.3kgでしたので、約3倍もの大きさになります。ちなみに9,27kgの原石が見つかった時には、同時に5.1kgの原石も見つかっています。
発見者はタンザニアのメレラニ鉱山で働く労働者です。当時のニュースでは、貧しい労働者が一夜にして億万長者になったという報道がなされましたが、この2つの巨大な原石の所有者は発見場所の採掘権を持つオーナー。そのオーナーは、10年以上前から、その場所の採掘権を持ち、畜産業や農業で稼いだお金を採掘に回していたそうです。雇っていたのは約200人以上の労働者。その中の一人が巨大なタンザニアの原石を発見したというのが真相です。
この巨大なタンザナイトの原石は、2つともタンザニア政府が買取りに名乗り出て、約3億6,000万円で売却されたそうです。市場価格と比べるとかなり安い金額ですが、オーナーは政府と公正で透明な取引きができ満足したと語っていたそうです。ちなみに、この2つのタンザナイトの原石の売却益の10%は鉱山労働者の人々に分配。残りは地元にショッピングモール建設、そして子供たちのために学校建設に使う予定と報道されていました。
タンザナイトの魅力と身に着ける意味

タンザナイトの最大の魅力は、その色にあると言えるでしょう。サファイアのようなブルーに、アメジストのようなパープル。淡くもあれば濃くもあり、そして多色性は時間の移り変わりも感じることもできます。
壮大な自然の夜の始まりから、深まりつつある夜をそのまま写し出したような色は、本来であれば記憶としてだけ留めておくことができるものです。しかし小さなタンザナイトの中には、その美しい一瞬一瞬が閉じ込められています。
本当の夜の暗闇は何も見えません。そこまで達すると無ですが、その過程にはさまざまな色が現れながら変化をしていきます。タンザナイトはそのプロセスの一部。全部ではなく、一瞬の連続からなる一部分を見せてくれます。タンザニアの夜と名付けられたブルーゾイサイト。名前によって導かれた先は、商業的な成功だけにとどまらない、秘められた魅力の解放。どれくらいの人々がタンザナイトを通して、アフリカの大自然の夜に思いを馳せたのか。
今回は、タンザナイトについてお伝えしました。世の中にあるのは、手の届かない高価なジュエリーとしてのタンザナイトだけではありません。おすすめは、天然石のタンザナイト。ぜひ実際に手に取って、その世界に触れてみてください。
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